マイクロサージャリーとは?定義や歴史

マイクロサージャリーとは、その文字どおり「マイクロ(微小な)+サージャリー(外科手術)」を表す言葉で、手術用顕微鏡を必要とする手術の総称です。
「そうは言われても、具体的なイメージができない…」という悩みにお応えすべく
歴史と概要をまとめてみました。

目次

顕微鏡下手術の第一人者はスウェーデンの耳鼻咽喉科医

世界で最初の顕微鏡を用いた手術は1921年、スウェーデンの耳鼻咽喉科医、カールオロフ・ニレーンがストックホルム大学で行った手術でした。
(余談ですが、彼はオリンピック出場経験もある有名なテニス選手でもあったそうです。)
この時彼は手術で単眼の顕微鏡を用いましたが、翌年には彼の同僚であり同じく耳鼻咽喉科医のグンナー・ホルムグレンによって双眼顕微鏡が開発されました。

その後、耳の手術だけでなく眼科や脳神経外科の分野でも顕微鏡を用いた手術が行われるようになり、現在では、整形外科、形成外科、眼科、婦人科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、口腔・顎顔面外科、小児外科、腎泌尿器外科などでも顕微鏡を用いた手術が行われています。

血管吻合の進歩

マイクロサージャリーの中で最も顕著な進歩とされるのが、身体のある部分から別の部分へ組織を移すことや、切断された部分の再接着を可能にした、血管吻合と神経吻合の処置です。「マイクロサージャリー」という用語が現れる前、手術用顕微鏡の誕生よりもはるか昔の1896年から、血管吻合が行われていたと言われています。

第二次世界大戦による技術の発展

第二次世界大戦は、血管手術の進歩を促しました。
抗生物質の確立、感染管理の改善、微細な縫合および器具の開発が血管手術の結果を改善し、3mmより小さな血管吻合の成功をもたらします。血管吻合のために顕微鏡を用いた最初の手術は1960年、バーモント大学の血管外科医ジェイコブソンによる1.4mmの血管の吻合で、彼が初めて「マイクロサージャリー」という用語を使いました。

経済成長とマイクロサージャリー

終戦後、急な経済成長を遂げた我が国のような地域では工業の発展とともに事故の件数が増え、
さらにマイクロサージャリーが重要になります。
特に手の手術の分野では、
切断された部分の修復、欠陥を補うための組織移動や機能の改善においてマイクロサージャリーが求められました。
完全に切断された指の再接着は、1965年に初めて、労災で親指を切断した男性に対して、奈良県立医科大学の玉井進教授と小松重雄教授によって行われました。

当社が国内初のマイクロサージャリー用針付縫合糸を発売したのも、1974年、高度経済成長の頃でした。

悪性腫瘍(がん)の治療とマイクロサージャリー

現在、日本人の2人に1人は、一生のうちに何らかのがんにかかると言われているほど、身近な病気のがん。
新たな治療法が開発され、外科的治療をしなくても治せる場合もありますが、
時には悪性腫瘍を切除するために外科手術を行い、腫瘍があった部分の組織を大きく損ねてしまうことになります。

そこで、身体の別の部位の組織を使って再建手術を行う際に、マイクロサージャリーが行われます。
マイクロサージャリーを使って移植する身体各部の血管柄付きの組織を、一般に遊離皮弁(ゆうりひべん)やFree flap(フリーフラップ)と言います。この遊離皮弁移植術は、皮膚・皮下脂肪弁や筋肉・骨などに血管を付けた「生きた自家組織」を移植できるので、様々な欠損や変形の再建に用いられる代表的な形成外科手技となっています。

リンパ管静脈吻合によるリンパ浮腫治療

がんの治療と合わせて必要になるマイクロサージャリーは身体部位の再建だけではありません。
手術でリンパ節を取り除いたり、放射線治療によってリンパの流れが停滞することで、
生涯にわたり、生活に支障をきたすほど腕や脚がむくむことがあります。

これを改善する方法の一つであるリンパ管静脈吻合(LVA)では、
むくんだ部分のリンパ管を静脈につなげることで滞っているリンパ液を流すことができます。

リンパ管は非常に細く、直径0.5mmほどしかない管を縫い合わせなくてはいけないので
顕微鏡下で、直径50マイクロメートル(0.05mm)という非常に細い針を使用して行われます。

マイクロサージャリーは「コンセプト」

「マイクロサージャリー」をもっと日本語的に言うとしたら、前述のとおり「顕微鏡を用いた微小な手術」なのですが、それが最適な表現なのだろうか…と悶々としていたところ、
香港の整形外科医であるクララ ウォン ウィンイーがすばらしいまとめをされていたので紹介します。

“私たちがマイクロサージャリーの一般的な定義を理解しようとすることは難しいでしょう。
なぜならマイクロサージャリーは「広い」「深い」「微細」という意味を取り入れたコンセプトなのです。

「広い」というのは、疾患の種類や見える世界についてです。
マイクロサージャリーは外傷や、感染、腫瘍の切除、そして先天的な欠損など、多種多様な疾患を治療します。また、顕微鏡下での拡大された世界は別の世界で、それは疾患を正しく診断し、正確に治療することに役立ちます。
「深い」というのは、ただ単に欠けている部分を補充するということだけでなく、骨や関節、筋肉を含んだ複合的な移植を行ったり、機能的な再建にも用いられることを意味します。医療技術の改善や、より高度な顕微鏡、精巧な器具と縫合材料により、多くの技術的課題が解決されてきました。
これによって、より微細な手術が可能になり、例えばとても良好な状態で指が取り戻されることで、手の機能、感覚、そして心理的な幸福がもたらされます。
さらに「微細」というのは、より細かい修復ができることでより美容的効果をもたらしたり、移植組織を提供する方の部位へのダメージを減らすことができます。例えば光嶋教授が導入した穿通枝皮弁はドナーサイトへの侵襲性も低く、ドナー組織の柔軟性も高いため、修復する方の組織ともなじむことができます。

このことから、マイクロサージャリーは「拡大すること、より多くを見ること、より多くをすること、より良くすること、より多くを助けること」を可能にすると言えます。私たちが失った部分の組織を取り戻すことができるような医薬品を開発するまでは、マイクロサージャリーが重要な治療であり続けるでしょう。”
(全文はこちら)

―いかがでしょうか?
つまりマイクロサージャリーとは、多種多様な分野で微細な手術をすることにより、よりダメージレスに組織、機能の修復を行う手術だということができそうです。

マイクロサージャリーをより身近に

クララ ウォン ウィンイーはマイクロサージャリーについてこのようなことも述べています。

“顕微鏡を手作業で準備するような手術を行う時、術者たちはそれがたくさんの人手を必要とし、長時間と忍耐を求められる過酷な労働だとすぐに気づきます。
それゆえに多くの外科医は、より費用が高く効果が低いにも関わらず、テクノロジーやバイオ工学の発展による他の治療方法を選択し、マイクロサージャリーを選択肢の一番最後に位置付けるのです。しかし本当はこのような状況であってはなりません。”

長時間にわたり、負担が大きく、経験を積んで技術を習得したドクターでないと難しいマイクロサージャリーですが、手術用ロボットの開発など医療機器の開発によって少しでも負担が減り、もっとメジャーに、多くの人が受けられる手術になったら、医療の姿はさらに変わっていくのではないでしょうか。

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